おはなしセレクト
いつも「しんかい」から「かがやくもの」を眺めてた。 でも、深い深い「しんかい」からは見えなかった。なにも。 見えないなら「かがやくもの」へ行けばいいんだ。 風が運んできた宛て名の無い手紙をかき集めながら ぼくは歩いて。 そして、そこへやってきた。 ぼくの憧れの「かがやくもの」。 ここへ来てみて、解かったんだ。 いきものたちは、それぞれがトップランナーのように 自分の道を、力強く、かがやきながら、駆けていた。 ぼくも、そうなりたいけれど、少しこわいんだ。 どうがんばっても、転んで泣いてしまいそうで。 ぼくは、進むことも戻ることも出来ず、立ち尽くしていた。 ここは、赤と黒の滝。 上には、水。下にも、水。 そして沈んだ遺跡。 ここは、ふしぎなばしょ。 風が吹かない。いまはもう、だれもいない。 でも、見えないなにかが、みちている。 近づいてくる だれかの気配がした。 かなしい予感 むしろ、呼び寄せるように。 滝の洞窟を目指した。 滝の洞窟のなかを、ずんずん進む。 洞窟からする「けむり」の におい。 この、においがする方向へ、ずんずん進む。 においを辿っていったら おおきな いきものに出会いました。 黒い色をした「けむり」でした。 ことば が通じない いきもの。 僕は「けむり」の下を思いっきり走り抜けました。 走り抜けることで生まれた風は いろいろなものを、引っ張りました。 おおきな いきものも、引っ張れました。 「けむり」に覆われた、いきもの。 光が差し込む ちいさなすき間が、抜け道になる いままで、そこにあったものたちは 僕たちがいることで、どこかへ離れて 誰の目にもとめられなかったから 光も通り抜けていってしまうから 洞窟にいる いきものたちから色をうばった 色が混ざった、黒い暗い色 「色」が欲しかった 「けむりだったいきもの」は 風の吹く方向、光のすき間へ まっすぐ走っていった 僕は たくさんの いきものと 正面から出会って すれ違うために 反対の方向へ、駆けていく 駆けていく 「けむり」で出来た道を、ひたすら、のぼる 弱い道 重さで壊れてしまわないように ウサギさんは、のぼっては、すこしずつ 宛て名の無い手紙を捨てていました 宛て名の無い手紙が全て無くなったとき 僕たちは、洞窟のおわりに出ていました 灯台樹からこぼれた涙「おひさま」は 今日も、下から吹く風に逆らって、沈んでいました 沈んだ「おひさま」は「しんかい」とひとつになるらしい いつかすべてのいきものが、沢山涙をこぼしたら ここも「しんかい」になるのかなあ いまは、赤(明)るい この場所も もうすぐで黒(暗)くなる 風はすこし、吹いている 涙をこぼす、灯台樹 だれもいない滝 …そんなわけで。 たいせつな、あて名の無い手紙を全て失ったぼくは 教えてもらったんだ。 周りの景色を楽しみながらでいい、 時に脇道に迷い込んでもいい。 そこで手にしたものは、きっとそこでしか得られない、 たいせつなもの。 その手のひらのたいせつなものを置いていったり、拾ったりしながら、 「歩いて」いくことを。 ぼくは、すこしだけ、さみしくなくなった。 ぼくが「赤と黒の滝の洞窟」で置いていった 宛て名の無い手紙も きっと知らない誰かが拾ってくれて そのヒトのたいせつなものに、きっとなるから。 第3話へ、つづく。
0:導入 1:旅立ち 2:赤と黒の滝 3:魔女が魔女である理由 4:救いのヒト
5:決戦 6:国賭けゲーム 7:きこえない声 8:新たな出発 9:罪の代行者 10:永遠の夜 11:最後のノート 12:じゃあ、また
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