おはなしセレクト
|
0:導入 1:旅立ち 2:赤と黒の滝 3:魔女が魔女である理由 4:救いのヒト
5:決戦 6:国賭けゲーム 7:きこえない声 8:新たな出発 9:罪の代行者
10:永遠の夜 11:最後のノート 12:じゃあ、また
置いていく 置かれていく 気持ち
第1話 「 旅立ち 」
「せかいのあな」の「終点・海」という場所。
誰にも言わず、ここまで逃げて来た。
私が、遠くに行ってしまう事を知っているヒトは
誰もいない。
私は、今よりもっと、遠いところへ。
思い残す事が無いように、
手紙に「最後の言葉」を書いてみた。
お別れを言いに来てくれたヒトに渡そうと思う。
遠くへ行く私を、気付いてくれたヒトに。
…誰も、来ない。
もうすこし、待ってみる。
…旅立ちまで、あと、10分。
「せかいのあな」の「終点・空」という場所。
名もなきヒトが、渡したかった
宛名の無い、手紙。
それを拾ってみて、はじめて
自分が「置いていかれた」ことに気がついた。
置いていったヒトの気持ちを、かんがえてみる。
かんがえて、かんがえてかんがえて…。
僕は、空ばかりみるようになった。
そして僕は「かがやくもの」へ「魔法」を運ぶのをやめてしまった。
代わりに僕の街は、僕の育てた「名もなき花」でいっぱいになった。
お花は毎日波の音と一緒に、空へとのぼってく。
「さかさのくに・東」の「孤児院」という場所。
船で海を渡るように、空を渡ってみたい。
僕がそう思い始めたのは
今まで、当然のように風が運んでいた「魔法」が
無くなり始めたときからだった。
僕を育て、ココロ埋めてくれたのは
いつも、風だった。
待っていて。
今度は、僕たちの方から運びに行くから。
失いかけてから気付くこの想いを
記憶の小瓶に込め贈らせて。
「そらのくに」の「妖精の森」という場所。
僕は、けもの。
今、僕は「かがやくもの」を旅しています。
記憶がないけど、それなりに楽しんでいます。
今日も森を駆け抜けていたら「妖精の森」という場所に、 迷い込んでしまったみたいで。
そこで妖精さんに出会いました。 はぢめまして。友達になっても、いいかなぁ。
でも妖精さんは、僕が「妖精の森」に入ることが出来たのが、 すごく不思議みたいで。
自分たちがしぬことで、いきものをかなしませたくないという想いで この「妖精の森」には拒絶の魔法がかけられているんだね。
かなしいね。
僕は君たちのかなしみに引き寄せられてやって来たのかもしれない。
「妖精の森」にやってきた、1人目にも会ってみたいな。
聞けば、そのヒトは「楽器職人」。 かなしみで満ちた「妖精の森」を気に入って、 アトリエテントを張り、そこでだらけた生活をしているらしい。
僕は「楽器職人」に会わせてもらうことになりました。
楽器職人さん、どうしてそんなに、だらけた生活をしているの?
楽器職人さんは、長い長い旅の中で、 せかいが変わってきていることを知ったそうです。
楽器職人さんは悪くないと思う。
でもせかいが変わってしまうことも、悪くないと思う。
その変化が生む力によって、 もっと愛せる何かが見つかるかもしれないのだから。
その後楽器職人さんは考え込んで、 アトリエテントに、こもってしまいました。
僕は「妖精の森」で一晩過ごすことにしました。
風よ、吹け。絶え間なく。
手紙と勿忘草を、遠く遠くへ運んで。
少し遅い朝。
僕は目が覚めて。
いくら辺りを見回しても、 楽器職人さんも、妖精さんも、いませんでした。
いくら待っても、待っても、2人は帰って来ませんでした。
待つことに飽きた僕は、「妖精の森」を旅立ちました。
「かがやくもの」上空。
…そんなわけで。 けものと楽器職人はそれぞれ旅立って。
「かがやくもの」は風たちが運んできた「魔法」で溢れていたけれど、
ここ最近では「魔法」がぐんと減ってきたんだ。
一通の手紙をキッカケに、風たちは「魔法」を運ぶことをやめ始めて、代わりに「名もなき花」を手向けてくれるようになる。
「魔法」が減って「かがやくもの」はどう変わってゆくんだろう。
第2話へ、つづく。
|
|